【ライブレポート】『WOMEN’S POWER Vol.79 ~東京編 二日目~』@目黒ライブステーション(2026.09.20)
傷跡を光に変える場所で
ASAHIがガールズロックの聖地に見せた、静かなる決意と「覚醒」の予兆
秋の気配を含んだ雨が、目黒の坂道を濡らしていた。
地下へと続く階段を降り、扉を開けた先にある「目黒ライブステーション」のフロアは、すでにぎっしりと肩を寄せ合うオーディエンスの体温と湿気で満ちていた。
1991年から続く、日本のガールズロックの歴史そのものと言っていい名門イベント『WOMEN'S POWER』。
百戦錬磨のバンドたちが凌ぎを削るその神聖なステージに、今夜、ASAHIが立つ。
11月22日、渋谷GUILTYでのワンマンライブ『覚醒』へと至る道の途上。彼女が掲げる『ASAHI ROCK ALLIANCE LIVE SERIES』という旗印は、単なる対バン巡りではない。未踏の荒野へひとり足を踏み入れ、そこで出会う音や仲間、そして観客たちと魂の同盟(ALLIANCE)を結んでいくための、切実な旅路だ。かつてこの場所で、客席の片隅から憧れと焦燥の入り混じった眼差しでステージを見上げていたひとりの表現者が、今夜は音を鳴らす側として、その土を踏みしめる。
蒼い静寂を切り裂く、現在地の宣誓――「わたしのあした」から「二律背反」
暗転した空間に、厳かな空気を孕んだSEが流れ出す。
蒼い光が静かにステージの中央を射抜き、黒のシックなドレスを纏ったASAHIが姿を現した。佇まいは凛としていながら、どこか研ぎ澄まされた刃のような気迫を帯びている。
1曲目に選ばれたのは、今年7月に産声を上げたミニアルバムの表題曲「わたしのあした」だった。
静謐な祈りのような歌い出しから、バンドの重厚なアンサンブルが重なり、会場の空気がぐっと圧縮される。サビへと解き放たれた瞬間、ASAHIはフロアの奥へと真っ直ぐに手を伸ばした。綺麗事だけではない、自らの足元を確かめるような強い言葉たちが、まっすぐに胸へと飛び込んでくる。怯えも迷いも隠さず抱え込んだまま、それでも一歩前へと踏み出す――その歌声の芯にある太さが、1曲目からこのフロアの心をしっかりと捉えて離さない。
余韻に浸る暇さえ惜しむように、「ASAHI初見の方も、そうでない方も、続いての曲は一緒に盛り上がってジャンプしましょう!」と声を張ると、間髪入れずに「二律背反」のビートが炸裂した。
赤とオレンジの火花が散るような照明の中、フロアが一斉に跳ねる。YASHIRO(Gt)のエッジの効いたリフ、AYAKA(Ba)が唸らせる地を這う重低音、そしてAMI(Dr)が叩き出す骨太なグルーヴ。その重厚な音のうねりの上を、ASAHIの声は鋭く、しなやかに駆け抜けていく。自らの中に巣食う矛盾や葛藤をそのままロックへと叩きつけるようなステージングに、フロアの拳が次々と突き上がっていった。
さらけ出した弱さと、憧れの地へのリスペクト
激しい熱気の中、演奏を終えた彼女は、ふっと肩の力を抜いて柔らかい笑顔を見せた。
「改めまして、ASAHIです!」
雨の中足を運んでくれた観客への感謝を丁寧に口にし、今夜背中を預けるメンバーを紹介していく。
フロアから飛ぶ親しみを込めたコールに照れくさそうに応えながら、彼女はこの場所への特別な想いを語り始めた。
かつて、客席から観ていた『WOMEN'S POWER』。ステージの上で圧倒的な光を放っていたPARADOXXの姿に、胸を焦がしていたあの日。
「そのPARADOXXさんと今日、同じステージに立てていることが本当に嬉しいです」
飾らない言葉の端々に、音楽に対して誠実であり続けた人間だけが持つ、純粋な敬意と誇りが滲む。
そして、彼女は少しだけ声を落とし、自らの内面へと潜るように語りかけた。
「去年の年末、曲作りをしていた時、人生の中で一番自分に自信が持てなくて……すごく落ち込んでいた時期がありました。その時に書いた曲を聴いてください」
琥珀色の祈りと、突き抜ける青のダイナミズム――「小さな幸せ」「AQUAMARINE」
零れ落ちるように始まったのは「小さな幸せ」。
琥珀色の柔らかな光がステージを包み込み、アコースティックな温もりを帯びたバンドサウンドが、そっと彼女の歌に寄り添う。
何者にもなれない夜のこと、手のひらからこぼれ落ちそうになる日々の欠片。ASAHIの歌声は、傷ついたことのある者だけが知る痛みを決して否定せず、「それでもいいんだ」と抱きしめるように響いた。サビで見せる繊細なファルセットの揺らぎが、目黒の小さなライブハウスを、まるで自分だけの秘密の部屋のようにあたたかく満たしていく。激しさの裏側にある、表現者・ASAHIの最も柔らかく深い核に触れた瞬間だった。
その余韻を波のように引き継ぎ、深い海の底を思わせるブルーの照明が広がる中、「AQUAMARINE」へ。
透明感のある歌声が、サビに向かって驚くほどのダイナミズムを帯びて広がっていく。どこまでも伸びていくハイトーンは、天井の高いライブステーションの空間を突き抜け、どこか遠くの夜空へと抜けていくかのようだ。フロアの誰もが息を呑み、ステージから放たれる青い光と歌声の奔流をただ見つめていた。
結ばれた強固な絆、そして11月22日への約束
「WOMEN'S POWER、めっちゃ楽しい! 超楽しい! またここに立ちたいな」
歌い終えたASAHIの口からこぼれたのは、嘘偽りのない無邪気な感嘆だった。
客席へ呼びかける彼女の後ろで、ギターのYASHIRO、ベースのAYAKA、そしてドラムセットの奥からAMIまでもが立ち上がってスティックを天に掲げる。その微笑ましくも固い結束に、フロアから温かな笑いと拍手が湧き起こる。ステージの上の4人は、単なるサポートとボーカルではなく、同じ志で荒波を漕ぎ出すひとつの舟のようだった。
直近のライブを告知しながら、彼女の眼差しは、さらにその先にある約束の地へと向けられる。
「11月22日、渋谷GUILTYでワンマンライブをやります。私にとって、本当に本当に大切な挑戦になります。ぜひ、一緒に戦いに来てください」
その言葉には、もう客席から誰かを羨んでいた頃の迷いはなかった。
自らの足で立ち、自分の歌で未来を切り拓く覚悟を決めた者だけが宿す、静かで力強い光があった。
沸点を越えたフロア、解き放たれた「覚醒」の瞬間
「ラスト、みんなで最高の熱量でいきましょう!」
最後に放たれたのは、この秋のクライマックスへと直結するタイトルナンバー「覚醒」だ。イントロから牙を剥くようなギターリフ、心臓を抉る重低音がフロアを襲う。ステージを端から端へと駆けるASAHIの表情は、完全に"ロッカー"のそれだった。全身の筋肉を震わせるようなエモーショナルなシャウト、天を裂くハイトーン。フロアの熱気は瞬く間に沸点を越え、幾重もの拳がステージに向かって突き上げられる。ステージとフロアの境界線が熱で溶け出し、ひとつの巨大なエネルギーの塊となって空間を揺らしていた。
最後の音が掻き消えるように止み、残ったのは耳鳴りのような拍手と、歓声の渦だった。
肩で息をしながら、ASAHIはやり切った充実感に満ちた笑顔を浮かべた。マイクを外し、生声で「ありがとうございました!」と深く頭を下げる。その声は、PAを通さずとも、フロアの一番後ろまでしっかりと届いていた。
痛みをくぐり抜けた者だけが鳴らせる、本物のロック
自分の弱さを知り、傷跡を隠さず、それでも明日へ向かって音を鳴らし続けること。
この夜、ASAHIが見せたのは、借り物の強さではない、痛みをくぐり抜けて手に入れた"本物のロック"だった。
ガールズロックの聖地に刻みつけた確かな足跡。
結ばれた同盟(ALLIANCE)の手を握りしめた彼女は、11月22日、渋谷GUILTYでどんな完全なる「覚醒」を遂げるのだろうか。その答えを確かめるのが、今から待ち遠しくてたまらない。
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